借金をチャラにして自宅を守る方法
今回は、顧問先の事例を通じて、金融機関に借金をチャラにしてもらいつつ、
破産より多い金額を手元に残して、自宅を維持する方法についてお話ししたいと思います。
こう聞くと、「そんなことできるの?」と思われる方が大半ではないでしょうか。
借金をチャラにしてもらう代わりに、自宅は競売される、これが半ば常識のように思われているからです。
しかし、今やその常識を覆す制度が整備されており、機能し始めているのです。
この機会に、是非新しい常識を手に入れていただければと思います。
但し、誰もが使えるというようなものではないことは、予めお断りしておきます。
使いたいと思っても使えない状況の方がいることも事実です。
それでも、可能性を広げるという意味で、是非知っておいていただきたいと思います。
それでは、早速始めていきましょう。
顧問先の概要
今回事例としてお話しさせていただくのは、
・業歴約30年
・年商約3億円
・卸売業
を営まれている2代目社長です。
ご相談に来ていただいた当時の状況は、赤字で債務超過(仮に会社を清算すれば借金が残る状態)
年商と同額の借金を抱えているような状況であり、足元の資金繰り対策と銀行対応の他、どうこの赤字を
切り抜けていくか、そのための売上拡大策も含め、全般的な悩みを抱えていました。
いやいやながら会社を引き継いだ社長
ここに至るまでの経緯についても触れておきたいと思います。
そもそもの経営悪化要因は、1億円超の投資を伴う新規事業に失敗したことにあったのですが
これ自体は先代が行ったことでした。
その時点で、既に先代は高齢であったこともあり、銀行からの圧力が強く、当時すでに当社で働いていた
長男である現社長が事業を承継せざるを得なくなったという経緯だったようです。
現社長は、事業を承継したタイミングで、すぐに公的機関の支援を受けて銀行融資の条件変更を行い
返済負担を減らしつつ、なんとか経営を継続してきました。
しかし、売上も粗利も低下傾向が続いていた中、金利負担も大きく、赤字が徐々に拡大。
それと共に、社長は精神的に追い込まれてしまい、弊社にご相談にいらしたのでした。
会社存続の危機
こうして弊社の経営支援がスタートしていくのですが、程なくして運命の分かれ道とも言えるような出来事が起きてしまいます。
先代が急逝してしまわれたのです・・・。
現社長は、私の前でさえ、大いに先代を嫌ってみせていましたが、やはり親の死は特別なことです。
ましてや、現社長は先代への反発心から何とか精神状態を維持していたようなところがありました。
緊張の糸が切れてしまったのか、徐々に仕事に手がつかなくなり、遂には職場にも出社してこられなくなってしまったのです。
売上も粗利も下がってきている中、一刻も早く手を打たなければならない、そんなタイミングで、社長が
社長として決断することや、むしろ行動することまでもできなくなってしまい、まさに会社存続の危機に
直面してしまいます。
親族の誰かが経営を引き継いでくれれば良いのですが、赤字で債務超過、年商と同等の借金がある会社である
ことから、誰も火中の栗を拾おうとはしませんでした。
出口戦略を考える上での問題
このような状況になってしまったことから、会社をどうするかは喫緊の課題となってしまいました。
そこで問題となったのが、今後の雇用をどうしていくのか、もちろん、得意先への商売も急にやめると
いう訳にもいきませんし、長年の仕入先にも支払いをしなければなりません。
そして何より社長と奥様を苦しめたのが、
自宅を守ることができない
という問題でした。
冒頭でお話ししたように、当社は債務超過であり、仮に会社を清算すれば約1.5億円の借金が残る状態
でした。
つまり、会社の資産を全て換金しても足りないということであり、この時には、連帯保証人である社長の
資産、自宅も売却しなければならないということだったのです。
自宅は家族にとっての拠り所です。
これを手放さなければならない、それも競売という方法で公に強制売却されるようなことになるのは
耐えられない、そんな気持ちになってしまうのは当然と言えます。
多くの中小企業が、この問題を解決する術がないために、会社を辞めるという選択ができずにいるのです。
借金をチャラにして自宅を守る方法
その後、この会社がどうなったかと言うと、同業大手企業へ事業を売却し従業員の雇用を守りつつ、
社長は業界から身を引きました。
社長も雇用してもらうという道もあったのですが、むしろそれは本人が希望しませんでした。
そして、肝心の自宅ですが、結果、会社と共に
社長個人の借金もチャラになったにもかかわらず、所有権を維持したまま、まさにそのまま残す
ということができたのです。
まず、そもそも、
「赤字、債務超過、借金も年商と同等レベルのような会社を売ることができるのか?」
という疑問を持たれる方も多いと思います。
それが「できる」のです。
なぜできるかと言えば、それは、
借金は引き継がせず、買い手が欲しいものだけ売却するということが技術的に可能だからです。
これを「事業譲渡」と言います。
しかし、この手続きにも問題はあります。
事業譲渡の手続きで、事業の良い部分だけを売却してしまった結果、
悪い部分、つまり借金は残るので、これらの整理をする必要があるということです。
この借金を整理する方法が、普通ならば「破産」です。
すると、個人も紐づいていることから、やはり自宅を失うということになります。
だからこそ、会社を畳むことができず、最後の最後までがんばってしまう会社が増えてしまい、
企業の新陳代謝が進んでいないのではないか?
こうした問題意識から、破産以外の方法で、残った借金を整理する方法が考えられたのです。
今回は、まさにここがポイントになって全体がうまくいったと言って差し支えありません。
その方法が、
『経営者保証ガイドライン』
という制度を活用した、金融機関との交渉による借金の免除なのです。
こう言ってもわかりづらいと思いますので、このガイドラインのポイントを簡単に
お伝えしてみたいと思います。
金融機関側の債権回収額を増やしてあげると、経営者はインセンティブがもらえる
ということになります。
もっと具体的に言うと・・
何と比べて増やすか?:破産する場合よりも回収額を増やしてあげる
どうやって増やすか?:今回は、まだ事業継続可能な状態という早さで、
事業を譲渡して換金
インセンティブとは?:破産は99万円が基準。
これに+99万円~363万円の生活費+『自宅』
ということです。
金融機関側から見ても、最後の最後に資産がない状態で破産され、わずかなお金しか回収できないこと
に比べ、まだ事業継続可能な状態であり資産が残っている、事業を譲渡することで売却代金が会社に
入ってくる、ということだとすれば、回収額がずいぶんと多くなることが感覚的につかめるのではない
でしょうか。
だからこそ、そうした決断をした経営者に対するインセンティブとして、破産することに比べれば、
はるかに生活再建がしやすくなる生活資金や自宅までも手元に残してくれたりするということなのです。
さらに言えば・・
「経営者保証ガイドライン」を使うということは、「破産」するわけではありませんので、
個人情報への傷のつき方も浅いものになる可能性が高いですから、再び事業を起こして再起する、
という方向性も考えやすくなるのではないでしょうか。
ちなみに、この制度を活用するためには、複数の条件があるため、絶対に使えるというわけではないので
注意が必要です。
詳しくは専門家にご相談いただければと思います。
全ての手続きを終えて・・
出口戦略を考え実行に移すまでの期間は半年程度だったのですが、経営者保証ガイドラインを使って
金融機関と交渉しながら借金をチャラにしてもらうには、相応の時間がかかりました。
特に、当社の場合は、売却しづらい不動産を保有していたことが時間を長引かせたのです。
しかし、そうした手続きも全て終わり、先日もご家族から連絡をいただきましたが、社長はのびのび元気に
新しい仕事をしているとのことでした。
自宅も維持できて本当によかったと感謝の言葉もいただき、私としてもうれしかったです。
全ての人に当てはまるわけではありませんが、当てはまる人には本当に良い制度だと思います。
まとめ
今回お伝えしたかったのは、金融機関に借金をチャラにしてもらいつつ、破産より多い金額を手元に残して、自宅を維持する方法です。
これを使うためのポイントは、金融機関側の債権回収額を増やしてあげること
そのためには、早期の事業閉鎖に向けた決断と事業売却の模索
(赤字でも借金多額でも可能性あり)
誰もが使えるわけではないが、可能性を広げるという意味で是非知って欲しい
とういことでした。
「事業を早く諦めろ」などと言う気は毛頭ありません。
私は、そもそも会社の再建を支援する専門家です。
しかし、もう経営が苦しく仕方がないという方も多い世の中だからこそ、1つ選択肢として
知っていただきたいと思い、今回の事例を紹介させていただきました。
まだまだ大変な状況の方が多い時代ですが、一緒にがんばりましょう。応援しています。