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年商の2倍の借金から、資金調達と事業承継を経て、創業80年来の過去最高益を達成するまで
ご相談の経緯
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企業データ
- S社
- 資本金:500万円
- 年商:1億円
- 従業員数:15名
- 業種:塗装工事業
- ご相談時の経営状況:税引後利益は黒字だが、年商の2倍に上る借金や他の未払金もあり、新規借入ができず資金繰りが厳しい状態
- 経営悪化の原因:バブル時の過剰投資と放漫経営
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順調な売上高に反し、新しい機材の導入に当たって、手元に現金がないことに気がついた、専務と常務。改めて帳簿を確認して、次々と判明したその理由に、二人は愕然とする。業務に直結しない交際費、不要なシステムのリース費用、付き合いで契約していた各種保険。さらには、利益水準の低い見積もりや、社員遺族からの訴訟までもが、経営に重くのしかかっていたのだ。専務と常務による、二人三脚で進めた経営改革で、少しずつ持ち直してはきたものの、最も大きく経営を圧迫していた、銀行からの借入に対して、これ以上なす術がないと感じて、ご相談に訪れた。この訪問と専務と常務の熱意こそが、誰もが予想しえなかった、大きな成果につながっていく。
解決にあたって重視したポイント
- 資金の見える化と新たな資金調達の実現
- 事業承継の実施
- 人事評価制度の導入による社内活性化と過去最高益の達成
ご相談から解決までの流れ
- 1. ご相談
- 2. ご契約
- 3. デューデリジェンス(現状把握)
- 4. 今後の方向性の決定
- 6ヶ月
- 5. 経営改善計画書の作成
- 6. 銀行交渉
- 7. 新規銀行の開拓と融資の実現
- 12ヶ月
- 8. 事業継承プランの作成
- 9. 事業承継の実施
- 6ヶ月
- 10. 人事評価制度の作成と粗利益改善
- 25ヶ月~
問題解決を終えて
■問題の根幹
経営悪化の根本的要因は、バブル時代の過剰投資と放漫経営にあった。最盛期の年商5億円から年商1億円にまで低下、年商の2倍の過剰な借入、未払金などが残っており、新たな資金調達もできず、資金繰りに苦しんでいたのだ。
とはいえ、得意先は大手、技術もしっかりとした会社であり、 足元の利益は、ある程度出すことができていた。 そこに、社長のご子息である専務・常務が入社され、 一段階収益力はアップしていたのだが、それでも年商の2倍の借金の 壁は高かったため、さらなる収益力の改善、新規の資金調達という 課題をクリアしなければならない状態だった。
デューデリジェンスを進める中で、これらの課題を解決するために、大きな問題があることに気付いた。 それは、社長とそのご子息である専務・常務の間にある不和だ。
そもそも、初回のミーティングという大切なタイミングでさえ、専務・常務は、社長を同席させることを拒んできた。同席すると喧嘩になるかもしれないと顔をしかめて言うのだ。これはなかなかの重症だ。
そんなこともあってか、社長は既に高齢であるにもかかわらず、 後継者である子供たちに、肝心の借入に関わる状況を、まったく伝えていなかった。一方の子供たちも、あえて情報をつかもうとはしてい なかったのだが…。
そこで、私が両者の間に立って仲を取り持ちつつ、過剰債務を抱えた当社を、どのように立て直していくのか、どのように新たな資金調達をしていくのかを検討していくこととした。
-経営改善の方向性
こうして話を進めていく中で、専務・常務が知らない借入の詳細が次々と明らかになっていく。その中でも、身内が一人連帯保証人になっていたり、さらには、他の身内二人の自宅が担保に入っていたりしたことには、非常に驚かれていた。
自分たちの会社が、一族を巻き込んでいることを知った時は、社長への怒りと共に、申し訳なさもあいまって、とても複雑な心境だったろうと思う。
一方、私たちの目から見れば、これは現在の借入に対して、過剰な保証と担保だという感触があった。そもそも、現在は第三者保証人を取らないという原則であり、こうした保証を外していくためのガイドラインも存在する。
さらには、事務所兼工場と社長の自宅までもが担保に入っていたことから、これら全ての不動産を査定しなおし、銀行の担保評価額を算出。今後の返済能力も含めて考えれば、やはり過剰な担保であるとの確信も得て、経営改善と事業承継の方向性を、同時に取りまとめていった。
今後の方向性
1.リスケから正常返済へ
銀行借入は10年~20年返済の長期借換+資本性ローンを狙う
2.過剰保証・担保の解消
社長以外の連帯保証は解除+身内の自宅担保解除
3.当面の運転資金の確保
借換と同時に新規融資を獲得し経営の安定性保持
4.節税対策による返済原資の確保
事務所兼工場は社長へ売却し、会社で借りるリースバックを実施
5.事業承継の実現による意思決定スピードUP
上記実施を前提に、経営権を専務・常務へ移譲
■経営改善計画書の作成と新たな資金調達の実現
銀行への融資返済を減額(リスケジュール)していて、なおかつ年商の2倍の借金がある会社が、そもそも新たな資金調達などできるのか? そう思われる方が大半ではないだろうか。
結論から言えば、これは実現できた。そのポイントは、銀行の仕組みを理解した上で作成される経営改善計画書と、それを理解してくれる銀行との出会いだった。
-経営改善計画書の作成
まずは、現状からどのように経営を改善していけるのか、 そのストーリーを、経営改善計画書に落とし込む必要がある。 当社の場合、強みがはっきりとしていたため、そこをより強化し伸ばすという戦略を描いた。
その結果として、債務超過(決算書の貸借対照表にある純資産の部合計がマイナスの状態)を何年で解消できるのか、借金は何年で返済できるのかが、重要な指標となる。
しかし、当社のように傷が深い会社にとって、これらの指標を銀行が納得する水準に収めるのは容易ではない。そこで活躍するのが、日本政策金融公庫が持つ、資本性ローンという特別な融資である。
この資本性ローンは、業績連動の金利(業績が良いと金利が高く、悪いと低い)ながら、最大15年間返済が不要(コロナ特例版は最大20年)で、なんと言っても、この融資を受けた金額の分だけ、債務超過を 減少させる効果がある。
(詳しくは、こちらのコラムをご参照ください↓ https://www.linkthought.co.jp/column/subordinated_equity_loan)
もちろん、返済不要ということもあり、毎月の返済額を抑える効果も出せる。こうした設計を盛り込み、計画書を完成させ、いざ銀行交渉へと臨んだ。
-新たな銀行との出会い
資金調達を実現するに当たり、まずは、現在のメインバンクへ話しを 持っていくこととした。もちろん、長年の付き合いがあるということの他に、社長が上層部とのつながりを持っていたことにも期待をかけてはみた。
しかし、メインバンクの対応は、けんもほろろという言葉そのもの。10年以上もの間、返済条件を変更し続けていた当社など、 相手にしないと言わんばかりだ。
だからといって、ここで手をこまねいているわけにはいかない。 新たな資金調達という目標達成のためには、この銀行を説得していくよりも、メインバンクを変更するという選択肢を持つべきだと訴えた。
一般に、こうした大胆な取り組みの提案や実施に際して、多くの経営者は、どうしても過去の取引の経緯が頭をよぎるせいか、二の足を踏んでしまうことが多い。事実当社も即決とはいかず、社内での議論はあったようだが、財務の強化を一刻も早く進めたいという、専務と常務の熱意は、ここでも揺らぐことはなかった。
結果として、メインバンクを含む、銀行三行の既存融資を、 新たな銀行で超長期返済の融資に借り換えると共に、新規の運転資金 +日本政策金融公庫の資本性ローンを実現させ、 さらには、第三者保証人解除、身内の不動産担保2物件の解除にも成功した。
ちなみに、途中経過を知ったメインバンクからは、まるで手のひらを 返したかのように、毎日誰かがやってきて、「うちでやらせてくれないか」、「金利も下げるから」と、必死に融資を守ろうとしてきた。
そのため、せっかくなので、「当座貸越(とうざかしこし)の枠を作って」とお願いしてみることにした。当座貸越とは、いつでも借りたり返したりすることができる、借入の中では最優遇された融資形態のことで、普通、当社のような債務超過の会社が、新たに枠を持てるものではない。
が、当座貸越で3000万円ほど借りてくれと。専務、常務は、そんなには要らないので、1000万円ほどでということで、こちらも獲得に成功した。
■事業承継の実施
融資を得る段階で、事務所兼工場は社長へ売却し、それを会社で借り受けるリースバックという取引を同時に行った。これは、「社長に、安心して社長の座を降りていただく」「社長の座を降りた後も、安心して生活できる環境を整えることが、その前提条件となる」と踏んで、それをカタチにしたものだ。
しかし、もちろんだが、これを実現するにも一定のハードルはある。 まずは、購入資金の問題だ。これを新たな借入で行うとなるとさらにハードルが上がるため、社長がこれまでに会社へ貸し付けていたお金との相殺という形で行うこととした。
次に、社内の問題だ。専務と常務は、引退後も社長へ給与を払うなど 考えたくないというスタンスだ。ここに関しては、この施策により、 会社にもメリットがあることを説明することで納得していただいた。具体的には、会社は不動産売却損を計上し、この売却損がある間は、利益が相殺されて、税金の支払いが不要となる。税金分を内部留保として、借入金の返済に回せるということだ。
その上で、この取引を行う上で最も注意すべきは、税金の問題だったため、当社の顧問税理士の他、弊社からも不動産取引に強い税理士をセカンドオピニオンとして入れる、不動産鑑定士による鑑定を行うなどして、万全の体制を取った上で実現させたのだった。
こうして、社長へ毎月賃料を支払うようにすることで、いわゆる社長勇退のための道筋を整え、専務を新社長とする新体制が始まった。
■人事評価制度の導入による社内活性化と過去最高益の達成
経営を刷新する、と言葉にしてみただけでは、銀行をはじめ、顧客及 び社員の納得は得られない。先代社長から、現社長への事業承継を、スムーズにかつ着実に行い、その変化の成果を社内外にアピールすることでしか、会社の変革を示すことはできないのだ。
資金調達という大きな課題を解決した当社だったが、改めて社内を見回してみると、そこにあったのは、コミュニケーションが不足した社員たちの姿だった。個人プレーが散見され、会社全体としてのチームの力が、十分に発揮されているとはいえない状態になっていたのだ。
そして、当社には、さらにもう一段、収益力を上げるという課題も残されていた。これらを同時に解決していくために、人事評価制度の構築を行うこととした。
目標は、社員が成長し、粗利を向上させることに定めた。 先代社長の時の人事評価は、その胸先三寸で決まっていたに等しく、 多くの中小企業と同様、何もカタチらしいものはなかった。
そこで、そもそも社長が何を評価するのか?
○社員にはどうなって欲しいのか?
○優秀な社員の定義は何か?
○必要な知識や技術は何か?
など、事細かに話し合い、 おぼろげな形を作るところからはじめた。
ある程度のイメージをまとめたところで、社員たちの話し合いによっ て、評価項目を選定し、評価シートとして固めると共に、必要な技能の教育制度、キャリアステップ及びそれに紐づく賃金も明確にした。
さらには、賞与を出すためには、会社の利益が必要であることも明確に定めた。
これにより、社員一人一人が、会社における現在のポジションを把握しやすくなっただけでなく、この知識や技術を習得すれば、給与がこうなるのだと自分で計算できるようになった。
これらの施策により、社員のモチベーションがアップしただけでな く、社内で積極的にコミュニケーションがとられるようになり、急激に社員の成長スピードがアップした。その結果、粗利率8.8%の上昇を実現し、これが創業80年来過去最高益へと押し上げる原動力となったのだった。
人事評価制度を作ったことによる効果は、これだけにとどまらない。 採用時には、社内におけるキャリアアップの明確さや、コミュニケー ションの良さを、積極的にアピールする材料にもなったのだ。 新卒も含めて、新しい人材を積極的に登用し、短期間での育成及び戦力化を実現できる体制が整ったことは、当社にさらなる力を与えるこ ととなった。
■最後に
当社は、経営者が経営改善に熱意を持ち、その解決に真摯に取り組めば、このような結果をもたらすことができるという、見事なまでの実例だ。現社長と常務の次なる目標は、新工場の建設。そこに至るには、売上を少なくとも倍の2億円以上にはする必要がある。既に、そのためのシュミレーションも開始し、現在のメインバンクとも共有済みだ。そして、肝心の売上を上げるための仕掛けも設置し、それが徐々に機能し始めた。それこそ、業界大手からの受注にも成功している。第二の創業ともいうべき次なる発展は、強固な財務基盤と社員のヤル気とともに、その実現をしっかりと見据えている。この後どうなっていくのか楽しみで仕方がない。
■問題提起
「何かおかしいのでは?」と感じたら「経営の黄信号」のサイン。手遅れにならないうちに手を打つことと、事業承継も視野に入れながら、経営のテコ入れと刷新を図ることが大事。
同族会社においては、放漫経営またワンマン経営という言葉にも表されるように、社長の一挙手一投足が、その会社に大きく影響する。一方で、外部から見れば、身内だからコミュニケーションもとりやすいのではと思われやすい反面、実はまったくそうではないケースがざらにある。
そんな会社の刷新を図るためには、外部の力が必要だと、私は感じている。血縁という強固な関係をできるだけ損なうことなく、会社を運営していくことは、経営に携わる人も、またそれをサポートする人にも、それなりの覚悟が必要だ。
何かがおかしいと感じたときには、身内のことだからとか、身内の恥をさらすようで気が引けるなどとは思わず、できるだけ早く、社外に相談する心づもり、相談できる体制を、あらかじめ持っておくことが、同族企業をスムーズに運営していくための秘訣である。