「新型コロナ禍で倒産」を回避する ~今、中小企業はどのように経営していくべきか~
こんにちは。資金繰り・事業再生の専門家、道家健一(どうけ けんいち)です。
新型コロナウイルスの影響が日増しに強く出てくる中、中小企業経営者のみなさんにも不安が募るばかりだと思います。そんな状況の中、私たちのような事業再生コンサルタントがどう行動し、顧問先とどのような活動をしているのか、その中の一例もご紹介することで、同じように大変な状況に置かれている、中小企業の経営者の方に、少しでも参考なればと今回のコラムを書きたいと思います。
私たちの顧問先は、そもそも資金繰りが相当に悪化してからご相談に来られた方ばかりですから、簡単に融資を借りられるようなきれいな決算書の会社ではありません。売上急減・赤字・債務超過・新規事業失敗・過大借入・リスケ中(銀行借入返済を減額中)・税金や社会保険の未納、様々な困難な状況を抱えています。そこに、今回新型コロナの影響が加わったわけです。それがどれだけ困難な状況か、言わずとも伝わるのではないでしょうか。
私たちの顧問先も、現時点で大きく2種類に分けることができます。
1つ目は、新型コロナウイルスの影響を直接的に受けて売上が既に減少している会社。
例えば、営業の停止や自粛要請を受けたイベントや娯楽関連・商業施設・教育関係やスポーツ施設等などの事業者、外出自粛要請に伴い需要が蒸発してしまった飲食業や宿泊業・小売業、サービス業、世界的な影響から原材料や一部商品の調達が難しくなり製造や納品ができない製造業や建設業の一部の会社などです。
2つ目は、上記のように、売上にはまだ直接的な影響が大きくない、または顕在化していない会社です。
それぞれに、どのような対応をしているかお話していきたいと思います。
売上に影響が大きく出ている会社がとるべき対応
これは、自社の経営努力にかかわらず、売上がまったくないとか、明らかに減少しているという状況ですから、
国や自治体の融資や助成金制度を使い倒して耐え忍ぶ
ということに尽きると考えています。
“使い倒す”という言葉に込めたように、まさに使えるものは全て使う、というくらい徹底的に調べて活用するようにしています。その際に、よく見ているが、経済産業省がまとめている資料です。まだご覧になっていない方は、是非ご確認ください。
経済産業省資料「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf
数日おきに更新されていますので、一度見たからと言わずにご確認ください。この中でも利用される方が多いのは、目先の運転資金を確保するための融資と、休業などをせざるを得ない状況になった際の給与の助成金(雇用調整助成金)になると思います。
私たちには、やはり融資のご相談が多いのですが、その中でもよくお話をしている内容についてもご紹介したいと思います。
例えば、現時点で今回の緊急融資は、保証協会・日本政策金融公庫(以下、公庫という)・商工中金が、それぞれに出しています。そして、保証協会であれば、セーフティーネット保証(4号と5号)と危機関連保証の2種類があり、公庫であれば、セーフテーィーネット貸付と特別貸付があり、小規模事業者向けにはマル経融資の別枠という3種類があったりします。
こうなると、ややこしくて、どうしたらいいのか?と悩む方も多いのではないでしょうか。
「どこに融資申込に行けばいいですか?」
とのご質問も多数受けますが、売上の減少幅に応じて使える制度や融資の受けやすさが異なってくるものの、仮に昨年比または一昨年比で、直近1ヶ月の売上が5%以上減少しているならば、
全てに申し込むべき
と考えています。(但し、商工中金は年商3億円以下の会社向けではありません。公庫を利用してほしいと言われてしまうことがあります。)付け加えれば、既存の取引銀行から新型コロナ関連のプロパー融資(保証協会付きでない融資)を引き出すことも考えて良いのです。
ここから、もう少し細かなお話をしていきます。
とは言え、やはり融資の受けやすさやスピード感も踏まえて、この中でもどうしたらいいの?という方も多いと思います。そんな方のために、以下を参考にしていただければと思います。
保証協会の制度は、まず役所で売上減少したという認定を取り、銀行に申し込みをして、保証協会と銀行の審査を経て融資が実行されることになります。それに対して、公庫と商工中金は役所と保証協会を挟みません。
つまり、実行までの速さを考えるのであれば、本来は公庫と商工中金の方が速いはずです。
さらに、公庫と商工中金を比べるとすれば、公庫の方は制度が早い段階で固まっていたこともあり、融資実績が多く、私の感触としても、とても平時には考えられない柔軟さで対応していると感じますので、公庫の方に軍配が上がります。
次に、融資の受けやすさという視点で話をしましょう。
結論からいくと、国が運営する金融機関である公庫が最も柔軟に見えます。なぜなら、経営状態が非常に厳しい弊社の顧問先に対しても、融資を出してもらえているからです。
半官半民の商工中金は、過去にこうした制度融資で不正利用という不祥事を出してしまった過去があることからも、ある程度慎重な対応をせざるを得ないようにも思いますし、保証協会付き融資は、やはり入り口に立つ銀行が障壁になり、そもそも経営状態が厳しかったという会社に対しては、ドライな対応が見られます。これはあくまでも現時点での私の感想であり、今後変化してくることも期待したいと思っています。
繰り返しますが、このように話しているからといって、保証協会や商工中金に申し込まないというのではなく、対象となるならば、全てに申し込んでください。
そして、保証協会付き融資なら、最も融資を受けやすいのは4号認定(前年同月比で売上20%以上減)を取得してのセーフティーネット融資です。なぜこれかと言えば、そもそも銀行も勧めてくるわけですが、その理由は、保証協会が100%保証しているからです。
つまり、もしあなたが返済できなくなった時に、保証協会が100%銀行に払うという約束になっているので、リスクがない、ということになります。
これが5号認定(前年同月比で売上5%以上減)だとすれば、80%になるため、20%は銀行がリスクを負担することになり、審査が厳しくなりやすいということです。
ちなみに、危機関連保証(前年同月比で売上15%以上減)という制度も100%保証なのですが、こちらの方が後からできた制度であることからか、こちらよりも4号認定の方を使っているようです。
種類 | 融資基準 | 融資の受けやすさ | スピード | 備考 | |
日本政策金融公庫(公庫) | ・セーフティーネット貸付 ・特別貸付 ・マル経融資の別枠 |
前年か前前年同月比で売上5%以上減(最近1か月) 前年か前前年同月比で売上5%以上減(最近1か月) 売上減少の恐れがあれば可 |
◎ | 〇 | マル経融資は、小規模事業者向けの商工会議所会員向け融資制度(卸売・小売・サービスでは、従業員5人以下。製造・建設他は、従業員20人以下が対象) |
保証協会付き融資(銀行) | ・セーフティーネット保証(4号) ・セーフティーネット保証(5号) ・危機関連保証 |
前年同月比で売上20%以上減(最近1か月) 前年同月比で売上5%以上減(最近1か月) 前年同月比で売上15%以上減(最近1か月) |
〇 | △ | 4号認定を取得してのセーフティーネット融資が最も受けやすい |
商工中金 | ・危機対応融資 | 前年か前前年同月比で売上5%以上減(最近1か月) | △ | 〇 | 年商3億円以下の会社向けではない |
※上記の融資基準には、売上基準の他にも業種や業歴等の基準が含まれることがあります。
※上記の融資の受けやすさは、あくまでも弊社顧問先での融資申込状況を基準としています。
※上記のスピードは、関係者の数を基準としています。但し、現時点ではどこも混雑し遅れがちです。
「いつ、いくら、期間は?」
どこに申し込むべきかの次は、この質問をいただきます。
これらに対しても、私たちの考えはとてもシンプルです。
早く・多く・長く
つまり、できるだけ早い段階で、できるだけ多くの融資を、できるだけ据え置き期間も確保した長期の融資を受けるのです。
しかし、このような話をすると、一部の税理士先生からは、できるだけ借入はしないでいこう、必要な時に、できるだけ短く、必要な額だけでいいじゃないか、というような話が聞こえてくることがあります。
こうした税理士に言いたいのです。「先生、今は緊急時です!」と。
会社が生き残ることが最大の課題である以上、何を悠長なことを言っているのか。この後の事業環境がどうなるかは、現時点では誰にも予想できません。
必要な時になどと言って、その必要な時に融資が受けられると断言できるでしょうか?タイミングが少しでもズレたら事業継続に問題が出るのではないでしょうか?できるだけ短く、必要な額だけと言って、それが今の時点でどの程度かわかるのでしょうか?
だからこそ、今は、早く・長く・多くなのです。
さらに言えば、経営者側からも、多額のお金を借りるのは嫌だ、返済できるかどうか不安だ、その分金利がかかる、という方もいます。
そんな経営者にも言いたいのです。「社長、今は緊急時です!」と。
使わなければ使わなかったで良いではありませんか。その時は返済すればいいだけです。そこまでにかかった金利は保険料としてみてください。倒産するかもしれないことから見れば、その保険料など微々たるものです。
緊急時は、損益より資金繰り、お金の量を重視する
このように考えてください。
「融資を申し込んでダメだったら、資金が足りなくなったらどうする?」
これも現実的な問題として考えておく必要があります。これに対する回答もとてもシンプルです。
借りられないなら支払いを止める
具体的には、銀行からの借入、税金や社会保険、業種によっては大きな電気・ガス料金などでしょうか。
これらも、国の方から各事業者や役所へ柔軟な対応をするよう要請が入っています。もし借入ができなかった、できたがまったく足りない、という事態になったとすれば、迷わず、すぐに支払いを止めることも考えていくべきでしょう。
融資を受けたばかりだがどうしたものか?
仮にリスケジュール(銀行借入の返済猶予)したらその後どうなるのか?再び融資を受けられるのか?など様々な疑問も生まれると思いますが、それも含めて相談してみると良いでしょう。
こうした時こそ、専門家に相談してみるのも1つだと思います。今は、無料相談も多いので、是非活用してみてください。
売上にはまだ直接的な影響が大きくない、顕在化していない会社がとるべき対応
この状態の経営者と2月から3月にかけてお話をしているときは、明らかに危機感が薄かったと思います。
確かに、実感もなかったわけで、わからなくもありません。
しかし、経営者として、何も手を打たずにいて良いのか?私は、こう問いかけていました。そして、
常にワーストケースを想定しておくべきだ
というお話をしていたのです。だからこそ、以下の3つの方針と8つのアクションプランを前提に、顧問先へのコンサルティングを進めるようにしていました。
3つの方針
1.意思決定を保守的・防衛的とする
2.損益より資金繰り、お金の量に目を向ける
3.ピンチをチャンスと捉え攻めの一手を打つ
8つのアクションプラン
1) 情報収集を多面的かつ頻度を上げて行う(客観的数字・お客や現場の肌感覚等)
2) 積極的に損益見通しを下げ、その前提で資金繰りを見直す
3) 国や自治体の融資・助成金を使い倒す(売上減少下にない会社でも使える融資制度も)
4) 融資がダメなら各種の支払繰延べも選択肢とする(融資・税金・社会保険等)
5) まさかに備える(関係者の感染、休業、得意先・仕入外注先の倒産等)
6) 危機感の共有と社員との団結(なぜこの事業か、倒産させない覚悟、その方法の共有)
7) これから訪れるであろうお客の悩みを想像し、問題解決を図ることでの売上向上
8) 抜本的な経営問題への対処(売上獲得方法の見直し、粗利向上策の検討、社員教育等)
積極的にお金の量を積み上げておく、そして、未来への一手を打ち続けていく、
特に、忙しさやハードルの高さから後回しにしていた8)抜本的な経営問題への対処、
これに手を付けていただきたいと思います。
そうすれば、これから来る景気後退の波にも対処できるようになるはずです。
ここからは、私の感覚的な話をさせてください。
先程お話した通り、これから、明らかな景気後退が目に見えてくるようになると思っています。流石にもう、コロナの影響はうちには出ないですよ、そういう経営者も随分と減ってきたとは思います。
しかし、これから来るであろう景気後退の大きさをイメージしている人は少ないかもしれません。何もなければないで良いのですが、既に出始めている様々な指標が、私にそう思わせて仕方がないのです。
これまでのように売上が獲得できなくなるかもしれません。
これまでのような単価で売上を伸ばせなくなるかもしれません。
これまでのように経費を使えなくなるかもしれません。
入金条件が悪くても良しとして受けていた仕事を見直さなければ危ないかもしれません。
見てみない振りをしていたものを許容できなくなるかもしれません。
今からは意識の変革が求められる時です。社長である、あなたにです。
そして、企業の存続をかけた戦いが始まったのだと思っています。
大袈裟に聞こえるかもしれませんが、これが、紛れもない私の感覚です。
思いもよらない事態ですが、こんなことに負けて欲しくありません。このコラムが、少しでも中小企業を経営するみなさん、そのサポートをする役員や財務経理担当者の方々、そして専門家のみなさんの参考になれば幸いです。
この国難をみなさんの力で乗り切っていきましょう!
私たちも頑張ります。