破綻寸前から借金ごと円満買収された建設業の事例
こんにちは。
資金繰り・事業再生の専門家、道家健一です。
今日は、「破綻寸前から借金ごと円満買収された建設業の事例」をお話ししていきたいと思います。
今回事例としてお話しする会社は、年商1億円の建設業で、資金繰りを改善したいと相談にいらっしゃいました。
業況としては、大赤字、借金は年商同等で借入ができず、多くの未払金も抱えていました。
そして、さらに高利の借入金があり、利息相当額で年商の10%もあるという、まさに危機的な状況だったのです。
異常に遅い入金サイクルと年率200%の借入で破綻寸前に
まずは、ここに至るまでの経緯もご紹介しておきたいと思います。
当社は設立50年を超える、70代の雇われ社長が経営する会社です。
しかし、連帯保証は全て社長という状況。
公共工事中心の会社ですが、業務を実施してから入金になるまで、なんと半年もかかるようなものも
ざらにあり、これが資金繰りを大きく圧迫していました。国との仕事なのに何で?と思われるかも
しれませんが、現実にそのようなことが起きており、私も信じられない気持ちでした。
さらには、長年の粉飾決算と不正確な経理処理のため、会社として儲かっているのかどうかが全くわかっていないという状態だったのです。
当然、銀行の借入返済はできず、元金の返済は条件変更して減額してもらっていましたが、それでも赤字による資金流出があり、結果的に払えないものが未払金として増加していました。
そして、この既に苦しい状況の中、入金されるはずの売上が入ってこないという事態が起きてしまったのです。
外注費や社員の給料すらも全く払えない状態です。この時、社長もやむにやまれず、苦肉の策として年率に換算して200%にもなるような借入を導入してしまったのでした。
当然のこと、資金繰りはさらに悪化していきます。
本業の赤字でお金が減る、過去の未払金の支払でお金が減る、高利の借入利息でお金が減る・・
まさに最悪の三重苦に陥ってしまい、出口が見いだせなくなっていたのでした。
具体的な打ち手
このような状況でしたが、自分の会社でもないのに責任を背負い込んでいる社長と、自分の資産すらなげうって会社を支えていた役員の方を見て甘すぎるなと思いつつ、この人の好過ぎる方々をなんとかしたい、という想いから私たちも事業再生へと取り組んでいったのでした。
問題の根幹
資金繰りの悪化要因は、入金サイクルが異常に長いということと、赤字の2つでした。
しかし、この赤字の原因はすぐに判明しなかったのです。
なぜなら、決算書も試算表も正確ではなく社長も税理士も実態を把握していなかったからです。
そこで、現場の役員の方と面談をさせていただき実態の把握を始めました。
見るべきポイントは、そもそもの予算はどうなっていて、結果はどうだったのか?ということです。
すると、あぶり出されてきたのは、儲かる仕事と儲からない仕事、さらには、儲けを出せる人と出せない人でした。
そして、根本的には、こうしたことが把握できない管理体制にこそ問題があったのです。
資金繰り改善策
ともかく、足元の資金繰りを改善していかねばなりません。
当社の資金繰りが悪い要因の一つ、異常に遅い入金サイクルを改善するために、2つの対策をもって臨むことにしました。
一つは、前金がもらえる仕事へのシフトです。
それまでは、既存の社員でこなせる分だけの仕事しか受けていませんでしたが、採用を強化し、外注も開拓し、資金繰りを意識しながら受注量をコントロールしていくことにしました。
そしてもう一つは、異常に遅い入金サイクルを改善するための根治策です。
それは、しかるべきルートから手順を踏みつつ、国との交渉を行うということです。
始めは、これは昔からの慣習だから仕方ないとか、目を付けられて受注できなくなると困るなどの意見もありましたが、そもそもこんな時代にそぐわない仕組みが放置されている方がおかしいのです。
社長を説得し、交渉に臨んでいただくことにしました。
その結果、ある程度の時間はかかりましたが、これまで業務を行ってから入金まで半年もかかっていたものが、それこそ翌月に払ってもらえるなど、劇的に資金繰りを改善させることに成功したのです。
他にも、各種支払いの繰り延べやノンバンクからの資金導入も含め、あらゆる対策をもって足元の資金繰りをつないでいきました。
黒字化策
ある程度は、資金繰りに目途をつけましたが過去の未払金も多いため、黒字化させると同時に黒字幅を増やしていかなければなりません。
そのために、やめるべきことと力を結集させることを明確にしていきました。
やめるべきこと
・儲からない仕事の受注
・儲けがまったくわからない管理体制
力を結集させること
・当社の得意分野での入札
・強みを活かせる人員の確保(採用活動の強化と外注先の開拓)
こうして、大きな方向性を定め、あとは一つ一つの仕事をきちんと見て、黒字なのか赤字なのかをチェックし、赤字なら赤字要因を特定し再発防止策を導入する、まさにこれの繰り返しの中で黒字化させていったのです。
過去の縁がもたらした破格の買収契約
ちなみに社長はご自身の年齢のこともあり、このような状況ながら事業承継も模索していました。
すると、経営改善が進み黒字化した直後、会社を買いたいという方が現れたのです。
この話は、トントン拍子で進み契約が成立しました。当然のこと、売却代金は高額ではありません。
しかし、黒字化したとはいえ売上と同等の借金を抱え、今時点で会社を清算すれば借金が残るという状態にもかかわらず、借金ごと引き受けてくれる方が現れたのです。
しかも、社長の連帯保証をすべて買い手の社長が引継ぎ、当面の資金繰りの支援も行い、さらには、現経営陣は維持し、実質的に経営を任せてもらえるというのです。
まさに破格の条件でした。
なぜこのような破格の条件で買収してもらえたのでしょうか。
もちろん、会社としての強みも、買い手企業とのシナジーもあります。
しかし、最も重要だったことは、他にありました。
買い手企業の代表と当社の社長には、実は縁があったのです。
社長も初めは気が付いていなかったのですが、買い手の社長が独立し、上京したての右も左も分からない頃、当社の事務所を数年間無償で貸していたことがあったのでした。
買い手の社長はその時の恩を返すことができると思い、これだけの破格の条件で会社を引き受けてくれたということです。
この話はうますぎるし裏があるかもしれない、仕事柄、私もかなり慎重になったことは事実です。
しかし、これだけの条件を提示してもらい関係性も理由もはっきりしていて、本当に資金支援までしていただけたことで、お互いの信頼関係は確固たるものとなりこの話は成立しました。
契約成立の一報を聞いたときには、私も心の底から嬉しかったです。こんなことが世の中にあるのだなと。
そして社長のこれまでの苦労が目に浮かび、涙が込み上げていました。
まとめ
このお話を通してお伝えしたかったことは、ここまで追い詰められた会社でも、良きゴールを迎えられることがある、ということです。
もちろん、全ての会社がこうなるとは言い切れません。それだけ厳しい状況だったと思います。
しかし、こんな会社もあるのですから、可能性を諦めないで欲しいのです。
業界や過去の常識に囚われず、あるべき姿から逆算して、何をすべきかを決め、ただひたすらに進んだその先には、明るい未来があるかもしれないということです。
そして、当事例の社長のように見返りを期待せず、なにか良き行いをする事も大切なのではないでしょうか。いつか回り回って自分に返ってくるかもしれないのですから。
負けるな社長!応援しています。